ランチより少し早い時間の11時20分。
今日はここでランチを食べて救われよう、と思った(かもしれない)お客様で、長蛇の列ができるレストランがあります。
そのレストランの名前は、「つばめグリル」。
つばめグリルは開店と同時に約200席の店内があっという間にお客様でいっぱいになります。その秘密は、どこにあるのか。集客の秘策は、どこにあるのか。
今回は、つばめグリルのビジネスモデルに迫ります。
目次
仲間に恥ずかしくない商売をする
つばめグリルは1930年に創業し、以来86年続く老舗のレストランです。
1960年代、東京オリンピック後の不景気に煽られ店を辞めるという二代目の父から店を継いで、経営の立て直しを図ったのが、現社長の三代目。
メインメニューはハンバーグ。
3代目はできるだけ忙しい時間帯を楽に回転させるために、前日にひき肉にオイスターソースを練りこんで焼き上げておく方法を考えて実行します。
つまり、仕込みと称して、前日にハンバーグを完成させておきました。この方法を採用すると、翌日のランチのピーク時にお客様がたくさん来店しても、温めるだけで出せるのでとても効率的です。
実は、このオイスターソースを練りこんだハンバーグ。
出来立ては、ギョッとするほど味が濃く、とてもじゃないけれど食べられないけれど、なぜか翌日に食べるとちょうど良い。
回転率と厨房の効率を優先させた味付けのハンバーグが、そこそこヒットします。
しかし、ヒットしたのにも関わらず、三代目社長はどこかすっきりしない、もやもやとした思いを募らせます。
そんな時。
お店に来ていた銀座老舗のカバン屋2代目社長にこんな質問をしたのです。
「どうしたら、老舗になれるんですか?」
すると、こう答えが返ってきました。
「仲間に恥ずかしくない商売をすることだよ」
三代目は、この言葉を受けてこう考えます。
恥ずかしくない商売とは、“美味しい”に正直でないといけない。
「今のまま、効率を優先させたハンバーグでヒットさせてもダメだ。長く続かなければ意味がない」
そして、大きく方向転換を図るのです。
「挽きたて、合わせたて、焼きたて」を出す店へ
『仕込みは工場ではなくキッチンで』
「仲間に恥ずかしくない商売をする」
その言葉を胸に、“美味しい“に正直になろうとします。
品川にお店を移すのと同時に(品川駅前の基幹店)、ハンバーグからハンブルグステーキに名前を変えます。
そして「挽きたて、合わせたて、焼きたて」を常に出すスタイルに変えました。
なぜなら「挽きたて、合わせたて、焼きたて」が美味しいからです。美味しくないハンバーグを、効率的に前日に作りおくことをやめたのです。
非効率的なのは百も承知。
それでも、老舗のレストランを目指して、正直に「美味しいハンバーグ」を毎日出したい。
三代目社長は、食堂時代に人気だったビーフシチューとハンブルグステーキを合わせたオリジナルメニュー、「つばめ風ハンブルグステーキ」を編み出し、気持ちを新たにスタートさせました。
実際に、つばめグリルがどうやって美味しいハンバーグ、いや、ハンブルグステーキを作っているのか、その順番をご紹介します。
1:食材の下ごしらえもコックが行う
都内にあるセントラルキッチンで、毎日、全店舗が一日で使い切る分の肉だけを、仕込みます。実際に店舗でコックとして働いているスタッフが、週に一度、店舗を離れて作業をするのです。
国産の原材料を丸ごと仕入れて、人気のハンブルステーキの元となる肉は店頭でひき肉にしやすい8cm角に切り分けます。ひき肉は空気に触れる面積が多いため、劣化が早い食材です。だから、仕込みは切り分けて8cm角ブロックにするところまでで止めます。
そうなんです。工場で、機械を使ってパートのおばちゃん達が仕込むわけでなないのです。
2:人の手による微調整を行う
機械では到底できない、プロの技で食材を仕込みます。
例えば、ハンブルグステーキに欠かせないビーフシチューの材料となる肉。
1つ1つ形が異なるため、焼き方を微調整しています。
焼きが強すぎると焦げてしまい、苦味の原因になります。
逆に、焼きが甘いとそこから肉汁が出て旨味が逃げてしまう。
1日に仕込む量は100kgを超えますが、この量の肉を調整しながら焼くのは、プロにしかできません。
工場ではなく、すべての店舗の台所。だから、セントラルキッチン。そう呼ばれるのです。
3:新鮮さにこだわる
美味しさに正直であるため、冷凍保存を一切せず、仕込みを終えた肉は、そのまま各店舗に届けられます。
お客様に提供する約30分前に店舗のキッチンでひき肉にされます。
手の温度で肉が劣化しないように、氷水にさらしながらひき肉を混ぜ、俵型に成形して焼くのです。
そして、お客様の目の前に運ばれます。ピーク時だろうがなんだろうが、関係ありません。
4:細部まで手を抜かない
そして、サラダにつけるマヨネーズ。これも、毎日各店舗で手作りしています。マヨネーズは油と生卵、お酢でできていると知ったら、その鮮度がいかに大事かわかっていただけるでしょうか。
作りたては、風味があって美味しい。
お皿の上に添えられる、十円玉ぐらいの大きさのマヨネーズにも手を抜きません。デザートメニューのカボチャプリンも、毎日各店舗で手作りしています。ベーコンもソーセージもセントラルキッチンで1ヶ月も熟成させて手作りしています。
ハンバーガー屋さんになりたくて、つばめグリルに入社した知り合いは、「真似をするのは無理だ」と言い切ります。
それほどまでに、手を抜かない。
「細かい部分で手を抜くと、全てが台無しになる」
三代目社長はそう考えています。
お客様の「うまい」に「正直である」ために手間をかけ、正直経営を行う。
自分たちで作ることで、一番美味しい状態でお客様に出せるよう管理しているのです。
100店舗より100年続く店を目指して
『60年通うロングリピーターがいる店』
一番人気のメニューは「つばめ風ハンブルグステーキ」。
全店合わせて一日で6500個、多い時で8000個も売れる、お店の看板メニューです。
セントラルキッチンで仕込んだ食材を冷凍せずにトラックで運ぶため、店舗はそこから1時間圏内と限定されています。
東京と神奈川の商業施設を中心に展開しているので、
「関西の友達が来たら、つばめグリルに連れて来てちょっと自慢するの」
とお客様に言わしめる。
三代目社長は、
「お店を増やすことは、全く考えていない」
と断言します。
「長く続くお店を作ることの方が、大事。正直経営こそ長く続ける秘訣だ」
と、考えます。
「子供時代に食べに来ていて、今は孫と一緒に食べに来ている」
このお客様の言葉から、その秘訣が正しいことを何より証明しています。
誰だって、美味しいものが食べたいと思いますよね。本当に美味しかったら、舌が、胃袋が、忘れないんです。忘れられない、といったほうが正しいかもしれません。
今日は、美味しいものが食べたいと思った時、「あ、あのハンバーグ(ハンブルグステーキ)が食べたい。」と、つばめグリルを思い出すのです。
欲しいのは、クーポンじゃない。
嬉しいのは、ポイントでもない。
人は美味しい!を求めて、列をなすのです。
まとめ
さて、つばめグリルのビジネスモデルを読んでいただいてありがとうございました。
肝心の、集客の秘密が見つかったかどうか…。そうです。残念ながら、秘密はありません。でも、ビジネスをする上で大切なことは見つかったのではないでしょうか。
つばめグリルは、
本物、本質に手間をかけた価値のあるものを提供しています。
価値あるものだから、自然とお客様に愛され、長く愛され続けるのだ、
ということです。
学ぶべきは、集客方法ではなく、
価値のあるものを提供しようとする正直な姿勢です。
効率や生産性が求められている今だからこそ、手間暇をかけることで、人の心に訴えかけるサービスが求められています。
「ただ正直に」「お客様が求めることを」すれば、他社とは一線を画す成果に繋がるのではないでしょうか。