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いまや、ハリーポッターといえばUSJ。
「ワンピース」「エヴァンゲリオン」「進撃の巨人」などのマンガのキャラに会えるのもUSJ。
パーク中がゾンビだらけになったり、世界一のクリスマスツリーがあったり・・・
入場者数でも東京ディズニーシーを超え、「東のディズニーリゾート」「西のUSJ」とまで言われるようになった、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)。
今回は、奇跡的なV字回復を見せたUSJの成功の舞台裏に迫ります。
目次
右肩下がりの入場者数を止めた男:森岡毅氏
USJは2001年の開園当初、1年間で1,100万人が入場しました。
入場者数1,000万人超の早さでは当時の世界最速記録でした。
しかし開園早々、消防法違反や期限切れ食品の不祥事など、トラブルが相次ぎ入場者数が激減。
さらに、開業時に借りた1,250億円の借金返済に追われたため新しいアトラクションに力を注げませんでした。
赤字決算を続けること6年、投資会社のゴールドマン・サックスによる増資、新規採用の停止、早期退職の募集などで、ようやく黒字化に成功します。
しかし後ろ向きな改革が続き、来場者数は減少。
とうとう2009年には当初1,100万人もいた年間入場者数が750万人になってしまいます。
そんな中、P&Gからヘッドハンティングされ、2011年にマーケティング担当に就任した森岡毅氏が窮地に陥るUSJを救いました。なんと彼は、たった3年で1000万人にまで回復させることに成功しました。
USJに足りないもの
森岡氏は2010年、入社すぐに研修としてアメリカのユニバーサル・オーランド・リゾートに見学に行きました。
そこでオープンしたばかりの「ハリーポッターエリア」に出会います。
アトラクションで隣に座った少女があまりの感動に号泣する姿を見て、衝撃を受けます。
「これは切り札になる」と直感した森岡氏は入社2か月目に社長に直談判しました。
「ハリーポッターエリアを作りたい。」
この意見は猛烈に反対されます。それもそのはず。「ハリーポッターエリア」は総工費450億円という大事業なのですが、当時のUSJは売上高が800億円しかありません。
それでも森岡には、「ハリーポッター」が世代を超えて楽しまれる作品で、経年劣化しにくいという確信がありました。
関西エリアだけでは勝負にならないと感じていましたが、関東から来る人なら必ず通る道に『3万円の川』が流れていることに気づいていました。一人あたりの交通費です。
関東エリアでテーマパークに行きたいだけなら、間違いなくディズニーリゾートに行ってしまう。3万円の川を渡ってでも来たくなる切り札が必要だ。
その確信と執念のもと、需要予測を数値化し社長を納得させます。もともと森岡をヘッドハンティングした社長だけに最初から反対していたのではなく、確信が欲しかったのです。
しかしその決断が意味するものは、ハリーポッターエリア開園まではほとんど資金が使えないことと、失敗すれば倒産するということでした。
USJ復活から学ぶV字回復のポイント
①お金をかけずにスタートする
上記でご紹介したように、「ハリーポッターこそがUSJの切り札になる」そう確信した森岡氏は、ハリーポッターのアトラクションを建設するために、予算を使わずに収益を増やすことにチャレンジします。
まずは、今や秋の名物となっている「ハロウィン・ホラー・ナイト」。
我慢強い日本の若い女性たちが、思いっきり叫べる場所を作ろうという発想がきっかけとなり、USJ全体にゾンビを大量に出現させました。
これがメディアにも大々的に取り上げられ、例年の6倍、40万人以上が来場しました。
次に行ったのは、森岡氏を一躍有名にした
「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ」。
発想は単純。
今まで走っていたジェットコースターを後ろ向きで走らせられないか。
コストがほとんどかかっていないにもかかわらず、「期間限定」という情報も相まって、日本最長記録となる9時間40分待ちという異様なまでの人気を集めました。
以前からあった「スパイダーマン」のアトラクションも、4K3DにするリノベーションとCMでの新鮮さのアピールで、まったく新しいアトラクションとして売り出しました。
②顧客層を拡大する
ある程度の資金が貯まったのち、森岡氏が動いたのは、日本で人気のあるエンターテイメントと手を組みファンを取り込むことでした。
すでに毎年開催されていたマンガ「ワンピース」ショーを大々的に告知。
さらにゲーム「モンスターハンター」と提携し、等身大のリアルなモンスターを展示しました。
他にもマンガ「進撃の巨人」や「エヴァンゲリオン」ともコラボしてそれぞれの熱狂的なファンを呼び込みます。
次に着手したのは、USJの最大の弱点だったファミリー層です。
映画好きが映画の世界を楽しめる大人向けのテーマパークだったこともあり、ファミリー層が少なかったのです。
一番の原因は、「子どもを遊ばせる場所」が少なかったこと。
そこで、パーク内にバラバラに設置されていた子供向けアトラクションを一か所に集めた、「ユニバーサル・ワンダーランド」を建設。それだけでファミリー層が増加しました。
さらにテーマパークとしてはライバルでもあるサンリオの「ハローキティ」と手を組んだり、幅広い支持を集める「きゃりーぱみゅぱみゅ」を呼んだりしました。
きわめつきは、“子供と本気で楽しめるクリスマスは何回もない”という内容のCMです。
家族連れで来園した女の子がお父さんを見上げる上目遣いの表情。
時折見せる、大人びたしぐさ。
世のお父さんたちの心にこのCMは深く突き刺ささり、イベントの内容を変えることなく、ファミリー層の来場者数を倍にまで伸ばします。
③どこにも負けない「切り札」「ウリ」となる商品を作る
「すべては3年後のハリーポッターエリアのために」
森岡氏は、可能性を感じさせるこの言葉を唱え続け、社員全員の心に火をつけました。
そして、2014年。ついに、ハリーポッターエリアが開業します。
開業1年前の2013年度には入場者数は1000万人を超えていました。
ハリーポッターエリアの集客力ばかりが注目されがちですが、450億円という巨額投資の前には、小さな成功を地道に重ねてきた背景があります。実に、ハリーポッターエリア開業までの3年間で、40個以上の新事業に取り組み、なんと97%を成功に導いたのです。
それまでのUSJでの新事業成功率30%とは比較にならない結果です。
成功率を圧倒的に高める戦い方
本場アメリカでマーケティングを学んできた森岡氏は、日本に帰ってきてこう感じたそうです。
「日本は本当に技術力が高い」
しかし
「日本人は情が強すぎる」
かつてのUSJが成功しなかった理由は、高い技術力をもって、間違えた方向へ力を注いだ結果だと分析しました。逆に森岡氏の成功率の高さは、「方向性が正しかったから」の一言に尽きます。
マーケッターの仕事は「商品を売れるようにすること」。
そのためには最初に『どこで戦うか』を考える必要があります。
ここが日本人には弱すぎるところだと言います。
「良いものを作れば売れる」という高度経済成長期の考え方が残っているのです。
「情」も「良いものを作る精神」も、どこで戦うかという『戦略』があってこそ、効果を発揮するものです。大局的にみる『戦略』。情を捨て、客観的に見抜いた戦場で勝利を収めるにはアイディアが必要です。
アイデアの神様の正体。それは「確率」です。ただ漠然とアイデアが降ってくるのを待つのでは、砂漠の中でダイヤモンドを探すようなもの。
そのアイデアが満たすべき「条件」や「枠組み」を先に考えないといけない。
そうすれば生み出せるスピートが早くなる。
アイデアを生み出すために、毎日のようにパーク内を観察する。消費者に人気のあるものなら何でもやってみる。必要とあらば2500時間もゲームをプレイします。
なぜなら、マーケターとは“消費者理解の専門家”でもあるからです。
正しい目的であれば、追い詰められて駄目だと思っても、無理だと思わず絶対に諦めずに執着し続けること。戦略的な発想方法があれば、その執念を苗床にしてきっと苦境を打開する「アイデアの神様」は降りてくる。
『戦略』から出たアイデアを成功させるには、「良いものを作る精神」で作られた商品が必要不可欠です。
その商品を的確にお客様に届けるためには、マーケティングの『戦術』が必要で、『戦術』を成功させるにはお客様を喜ばせたいという「情」が必要不可欠なのです。
まとめ
今回の「USJのビジネスモデル改革」はいかがでしたか?
ポイントをまとめると、
①お金をかけずに発想を変える
②顧客層の拡大を図る
③どこにも負けない切り札、ウリを作る
以上、3点です。そして何より、成功の確率を高めるものは、数値に基づいたマーケティングの戦略、さらにはお客様を喜ばせたいという「心」です。
集客に悩んでいるときは、手法を追い求めがちになりますが、往往にして答えはお客様が持っていることが多いでしょう。
今回の話を踏まえて、ご自身のお客様に焦点を当てることで、ビジネスのチャンスが広がるかもしれませんね。
興味のある方は、森岡毅氏の「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門」を読んでみてください。