印刷業界の市場は6兆円。
しかし実態は、4分の1を大手2社が独占し、残りの4分の3を2万社が取り合っているそうです。
思っている以上に大手の印刷会社が占めているんですね。
そして、11年前には3万社が存在していた印刷会社が、この10年間で1万社も廃業、もしくは倒産に追い込まれているのが現状です。
その大きな理由は、
1. 多くの印刷会社が大手の下請けの仕事に頼っている。
2.競合が2万社も存在する激戦状態。
3.競合他社がひしめき合っているため、価格競争が激化。
どんなにたくさん仕事をしても、どんなに納期を早めても、利益が上がらない。
かといって、下請けでも仕事をしないと生き残れない。
そんな業界のなかで、世界中から注文が殺到する印刷会社があります。
神戸にある印刷会社、株式会社グラフ。
多くの印刷会社が下請け経営にあえぐなか、世界中から依頼が殺到。
さらには、独自の手法で下請けから脱却しています。
今回は、その株式会社グラフ独自のマーケティングに迫りたいと思います。
脱・下請け。100%直接受注する印刷会社
グラフの前身である「北川紙器印刷」は、新聞のチラシなどを印刷する、ほぼ100%下請けの小さな印刷会社でした。
「このままだと倒産する」と、社員が心配するほど経営が苦しい状況。
そこで、家業を継いだグラフ株式会社の現社長である北川氏は、直接受注の新規顧客を求めて、神戸から単身上京します。
北川氏が行った営業は、通常では考えられない斬新は提案でした。
企業が宣伝に使うポストカードの費用は15〜16万円が相場。それを「1万円で作ります」と営業をかけたのです。
約95%のディスカウント。
印刷の工夫をすることで、なんとか赤字にはならないようにしたものの、なぜ、ここまで安くしたのか?
これは、「集客商品」と「収益商品」をうまく使い分けている例です。
「1万円」でポストカードを依頼してきた企業の中には、他にも依頼したいものがある企業もいます。
たとえば、チラシであったり、名刺であったり。
つまり、ポストカードでグラフを広く認知させて「集客」し、追加でくる印刷物の注文で「収益」をだす。
この営業が功を奏し、多い時には月3000件の新規の直接受注。
結果として、グラフの売り上げは、過去最高の約5倍を記録しました。
さらに、ポストカードの直接受注に集中するため、3年かけて全ての下請けの仕事をやめました。
グラフはこの時、100%下請け印刷会社から、100%直接受注の仕事をする印刷会社へ変わったのです。
お客さんの求める色をとことん追求
印刷する色を選ぶ際は通常、印刷会社が用意する色見本帳から色を指定します。
例えば、青を使って印刷したいとき、色見本帳で有名なPANTONEから選んで印刷業者へ指定します。
本当は、もう少し黒っぽい青で印刷してほしいな、と思っても、ちょっと黒っぽすぎるなど、イメージに合う色がない。
本当はもう少し黒い青がいいけど、仕方なく選ぶ、ということがあります。
そこで、北川氏がこだわったのは色。
色見本帳にない、どんな色でも作り出すようにしたのです。
見本に無い色は、印刷後にイメージしていた色と異なった場合、クレームの可能性があるのでどの印刷会社からも嫌煙されてきました。
なぜグラフは、他社が対応しない細かな色を印刷できたのか。
それは、25年かけて、100分の1gまで細かく指定されている、グラフ独自の色の調合データをまとめていたからです。
それをもとに、お客さんが求めるどんな色でも作り出すことに成功しました。
さらに凄いのが、お客様の求める色が1時間足らずで出来上がること。
通常インク屋さんに頼んでも、この時間で出てくることはありません。
まさに、印刷会社の駆け込み寺として、他社でできない印刷はグラフに!という信頼につなげることができました。
印刷できないものは何もない
そして、どんなに難しい印刷でも引き受けてきました。
どの印刷会社も二の足を踏んだ、初版本が100万円もするモノクロの写真集の復刻版も取り組みました。
また、誰も思いもつかなかった、反射する素材(夜ガードマンがつけるやつ)に印刷した本の表紙。
「こんなのに印刷するなんて考えられない」と印刷業界で話題に。
大手が難色を示す厄介な印刷に取り組んで来たことで、
「グラフだったらできるかもしれない」
と、噂を聞きつけて仕事が舞い込んでくるようになったのです。
また、印刷の仕上がりにこだわりを持つグラフ。
今では、グラフの持つ技術力と、どのような素材にも印刷が可能なことから、高いクオリティを必要とする、海外の高級ブランドのダイレクトメールやカタログの依頼までくるまでになりました。
「デザイン×印刷技術」捨てられない印刷物を目指して
印刷が好きで、父の仕事を手伝うのも大好きだった北川氏。
お正月用の金と赤をたくさん使った新春用のチラシ。
けれども、年が明ければ、そのチラシは古紙になってしまう。
一生懸命作ったものが、一瞬でゴミになることに、北川氏はとてつもない虚しさを感じたのです。
「うちの親父はゴミを作っている。」
それがトラウマになり、小学生の頃から、捨てられない印刷物作れないか。
捨てられない印刷物とは何か、をずっと考えていたと言います。
北川氏は、筑波大学でグラフィックデザインを学びます。
デザインした、老舗酒蔵の富久錦(ふくにしき)のロゴ「ふ」をモチーフにしたものが、有名デザイナーの登竜門といわれる、日本グラフィックデザイナー協会新人賞を受賞。
しかも、地元の印刷所で働く無名の男がデザインしたとあって、話題を呼び、お酒の売り上げも伸びました。
これをきっかけに、デザイナーとしての第一歩を踏み出しました。
他にも、神戸にある「烏三(からすさん)」は、グラフがロゴデザインと印刷を担当した、かりんとう饅頭屋さん。
「紙袋がシンプルで、ちょっとお友達にあげるのにいいんです。自分でも何か入れて持ち歩いたりするんです」
とお客さんにも喜ばれるものとなっています。
北川氏がずっと目指していた、「捨てられない印刷物」が実現したのです。
現在では、高い印刷技術と7000色もの調合データに加えて、北川社長のデザイン力もグラフの大きな強みになっています。
まとめ
グラフは、
・どの印刷会社も出せない色を作り出す
・どの印刷会社もやらない、難しい印刷ができる
・北川氏のオリジナルのデザインで付加価値をつける
という3つを基に、他社にはない印刷会社として「グラフでないとできない」という強みを生かし、成長してきました。
北川氏は言います。
「モノ作りは、技術を咀嚼して、デザインされたイメージを現実に落とし込む、着地させたものを作ることが大事。
機械に頼りすぎない。今や、人間力でしか差が出せない」
グラフは、ただ、印刷するのではありません。
「何を」印刷するのか?をとても大切にしています。
グラフの印刷物には、北川氏の考え・デザインや想いが一緒に印刷されているのです。
あなたのビジネス役立てるヒントがあったら、ぜひ参考にしてみてくださいね。