山梨県は、平成25年に健康寿命で1位。
そんな健康意識の高い山梨県民に、圧倒的支持をされるスーパー『いちやまマート』。
このスーパーは地方スーパーです。
大型店に押され苦戦を強いられる地方スーパーも多い中、いちやまマートは大手食品メーカーや同業スーパーまで味方につけることに成功しています。
また、地方スーパーでありながら、健康を意識したプライベートブランド『美味安心』も出しており、それが北は北海道から南は九州まで全国で、1000店舗以上で販売されるという人気ぶり。
圧倒的な人気を誇り、山梨県を中心に13店舗を展開する、スーパー「いちやまマート」の成功を紐解いてみたいと思います。
健康を目指すスーパーへの転換
創業1958年。
60年近く続く老舗スーパーのいちやまマート。
「山梨県で一番を目指す」
という創業者の想いが、三代目の三科雅嗣(みしな まさし)社長にも受け継がれています。
三科社長は慶應義塾大学を卒業後、3年間商社に勤め、父が運営する「いちやまマート」に入社。
どうやって売上を伸ばすかを追い求めていた先、創業者の父が55歳で他界。
後を継いだ兄も46歳の若さで他界してしまう。
共にガンだったそうです。
特に、兄の早すぎる死をきっかけに健康志向に目覚め、健康に関する本を読み漁り、スーパーとしても何かアクションを起こしたいと決めたことが、いちやまマート成長のきっかけとなりました。
そのアクションとは、「合成着色料」を使わない食品を取り扱うこと。
合成着色料とは、石油から作った着色料のことで、日本で認可はされているものの、アレルギーや発がん性が疑われています。
2016年の今でも合成着色料入りの食品をよく見かけますが、当時は2000年。
当時の人気商品にも合成着色料が使われており、仕入れスタッフは「売上が激減する」と思ったそうです。
社員が一丸となって「健康食品」に取り組む
当時、合成着色料無しの商品はとても少なく、スタッフもなかなか行動へ移せずにいたそうです。
そこで三科社長はスタッフを集め、こう発表しました。
”半年後の新聞広告に「合成着色料排除」を宣言する”
しかも、
”合成着色料入りの商品を見つけたら1万円”
という一文も添えてあった。
先に宣言してしまったら、あとは行動せざるを得ません。
社長が本気だと認識したスタッフたちは、半年間ひたすら商品を入れ替える作業に没頭したそう。
しかし、そこで大きな壁に直面します。
加工品で売上No.1を誇っていた「魚肉ソーセージ」の代替え品が見つからなかったのです。
魚肉ソーセージは本来白っぽい色合いであるとご存知でしたか?
実は加工の段階で、ソーセージらしさを出すために着色料が使われています。
合成着色料無しの魚肉ソーセージがどうしても見つからなかったため、「合成着色料不使用の商品を作って欲しい」とお願いするも、相手は大手食品メーカー、なかなか聞き入れてもらえません。
中小スーパーの都合で動くわけがないと諦めかけていた時、「いちやまマート」の営業マンが果敢にも食品メーカー社長に直談判。
“時代の流れに適っている”
という食品メーカー社長の判断により、合成着色料を使用しない魚肉ソーセージが誕生しました。
スタッフを本気にさせていなければ、起こり得なかった奇跡です。
“合成着色料排除の広告はスタッフのために作った”
という三科社長の言葉にも現れているように、スタッフ全員の気持ちを揃えることが重要だったのです。
そして、取り組み始めは半信半疑だったスタッフを後押ししたのは、意外にもスタッフの奥さんたちでした。
「あなたの会社、いいことやってるね」
お客様の代表でもある奥さんたちの本音。
そう言われて、この取り組みに対しスタッフたちは奮い立ったそうです。
美味しくて安心なプライベートブランド
合成着色料を排除したあと、いちやまマートは更に「健康食品の提供」を考えました。
“食品添加物が含まれていない「無添加」の商品を売りたい”
しかし、「無添加」の商品は希少な上に、ようやく見つけたとしても、病院食のように美味しくなかった。
“美味しくなければリピーターはつかない”
そう考えた三科社長は、無ければ作ろうと思い立ちます。
最初に作ったのは「味噌」。
国産大豆にコシヒカリ、八ヶ岳の伏流水だけを使用し、1年間熟成。
500gで500円と割高だったにも関わらず、健康意識の高い消費者から支持されました。
さらに「リンゴジュース」。
これは、1本の中に青森県産のリンゴを6個も入れてあるもので、人工甘味料を使わない素材の味を生かす商品です。
1本の値段は409円で、他社のものと比較すると2倍以上もするのに大人気。
元々プライベートブランドは、すでにあるメーカー品よりも安いのが魅力だったそうですが、いちやまマートは“美味しくて安心なら高くても売れる”という消費者ニーズに気付き、応えてきました。
それが『美味安心』という無添加をコンセプトにしたプライベートブランド。
全国のスーパーまでもが共感するものに成長していきました。
いちやまマートの「美味安心」を扱っている、東京四谷の「ショッピングセンター丸正総本店」は、グルテンフリーのカレーを販売し、「扱い始めた6年前より売上が300%アップしている」とお客さんの心をつかんでいます。
今では400種類以上の『美味安心』商品を「いちやまマート」では作っており、メーカー品よりも割高なものが多いそうです。
しかし、全てのプライベートブランド商品が健康食で高いわけではなく、低価格でも他店と勝負する姿勢も打ち出しています。
特化することに目を向けられる時代ではありますが、地方スーパーでは、健康だけでは勝負できない。
あくまでお客様に合わせつつ、その中で特化したものを作っていく。
それができるのが、いちやまマートの強みなのだと感じます。
まとめ
いちやまマートは時代に先駆け、スーパーに並ぶ商品をすべて「合成着色料不使用」にし、自社のプライベートブランドは「無添加」商品に特化して扱うスーパーです。
時代の流れに沿った、お客様の声に合わせた商品を取り扱うことが、いちやまマートの成長に繋がったのだと感じます。
いちやまマートが多くのお客さんや、同業他社である他のスーパーからも支持をされるのは、「体に悪いものは基本、販売しない」という1つのコンセプトを社内で共有していること。
そして、無理だと思われたことでも、「やる」と決めたことにあります。
健康を意識したプライベートブランドの「美味安心」は、今や全国1000店舗のスーパーで取り扱われています。
社員の意識改革を行い、あくまでお客様に合わせつつ、その中で特化したものを作っている「いちやまマート」。
ぜひ、参考にしてみてください!